海野 静子 (うんの しずこ)
Shizuko Unno

新現美術協会50年史掲載(2000年12月刊行)

10年前、40年史に自作について書いたのがついこの間のような気もしますし、ずい分遠い昔の事だったような気もします。

50年展までの10年間、何をしていたんだったかを書こうとして思うことは相変わらずの絵ばかり描いていたナーということです。なにせ40回展の頃から「界」シリーズを続けているんですから・・・。危機感をはらんだ現代社会と自己との相互関係というテーマに、(40年史にも書きましたが)記憶の底に沈殿しているものたちの力を借りて、なんとか作品にしてきました。けれども沈殿物も薄くなりつつあり、これでいいのかという思いもあり、更に追い打ちかけるように母をなくし、その喪失感は計りしれず、長い歳月苦しみながらではあったのです。

 1998年の中頃、誘われてタクラマカン砂漠とその周辺の遺跡に旅に出ました。荒涼とした広大な砂漠の大地、太古の昔よりたくさんの生物たちを呑み込み、悠久の歴史も呑み込んでそこにおおらかに存在している砂漠と、風化しつつも「お前はそれで進歩しているのかい」と問うているような遺跡群に出合うことによって、なぜか懐かしさに包まれて心が癒されたように思いました。元気をもらったようでした。よい気候だったのでそう思えたのでしょう。この気分を絵にしようとその時に思いました。遺跡に近い年令に差しかかった自分に重ね合わせ、しばらくはこれで行こうと。

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